悩んでいるパパ・ママへ伝えたいこと
診断の有無ではなく子どもの特性に焦点をあてる
——「診断が降りていないから…」と遠慮をしてしまったり、自分たちだけで何とかしようと無理をしてしまうパパやママがたくさんいるのではないかと思います。そんな方々に、アドバイスやご意見をいただけますか?
僕は、診断の有無は二の次だと思っています。例えば、福祉サービスを受けたいと感じたときに診察を受け、受給者証をもらえるかどうかの判断をあおぐとか。診断はあくまで補助的なものであり、それよりも子どもの特性や個性に合わせて考えることが重要だと思っています。
親自身の価値観をあらためて見つめ直すことも大切
子どもが嫌がっているのに無理に保育園や学校に行かせるのは、親自身の「保育園や学校に行かなければならない」という価値観が影響していることがあります。
親が変わらずに子どもを変えて押しつける構図になってしまっていますが、子どもの反応こそがむしろ正常なのかもしれません。「うるさいし、型にはまった行動しなきゃいけないし…そんな場はそりゃ嫌だよね」と、親側が自己変容できる用意をしておくのが大事なのかなと。
「学校は本当に行かなければならない場所なのか?」と親自身が問い直したり、子どもが「嫌だ」と言っている理由を解きほぐしてみることに時間を使ってみてほしいなと思います。
「頑張り続ける」ことで他の可能性を狭める場合もある
——頑張り屋の人ほど、自分にも子どもにも無理をさせてしまうような状況になってしまいそうですよね…。
そうですね。「自分がダメだからこうなっちゃうんだ…」という道に入ると、どんどんしんどくなっていきます。
でも、「頑張り続ける」ことが、逆に他の可能性を狭めていることもあるんです。
嫌でも頑張って保育園や小学校にいき、受験を頑張って中学校や高校に行き…と、どんどん頑張り続けることによって、価値観が狭まっていき、他にもあった無数の選択肢がいつの間にか消えてしまうこともある。そういう考えを持っておくのも良いかもしれません。
小さいうちは「訓練」をしなくていい
僕が意識しているのは、精神科医の本田秀夫先生の「少なくとも小学校高学年ぐらいまで特訓をしてはいけない」(『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』より)という言葉です。その言葉を信頼してここまでやってきました。
まずはその子が好きなことや、特性に合ったことをして安心して過ごせる環境を作り、特訓は心理的な土台ができた後で十分なのだと思います。娘には、無闇に目の前のことを頑張るのではなく、さまざまな選択肢を見て自分の好き嫌いや得意・不得意を理解するように伝えています。実際に、それによって娘が力を発揮しやすくなっていると感じています。
子育てにおいて大切にしていること
——最後に、ご自身の中で「子育てにおいて大切にしていること」を聞かせていただけますか?
親だけで何とかしようとしないことですね。いろんな人の力を借りて、いろんな人の価値観を伝えて、信頼できる大人をいろんなところに作ること。そしてみんなで子供を育てていくことを大切にしています。
子どもが、「学校に通えない自分はダメなんだ」と思ってしまうことがあったら、保護者が「そんなことないよ」と伝えてあげることが大切だと思います。
なので、僕は娘にはなるべく色んな大人に会わせるようにしています。例えば、許可していただける場合には、取材に連れて行くこともあります。例えば、絵本作家の五味太郎さんのアトリエに一緒に伺ったこともあります。第一線で活躍してる方から得られるものは大きくて、いろんな価値観が彼女の中に生まれてくると思っています。
取材に連れて行く以外にも、娘は絵を描くことが好きなので、デザインフェスタ(デザフェス)や文学フリマに毎年連れて行っています。子どもの興味に合わせてそういったイベントに一緒に行くのもいい経験になると思います。そこで出会った人と接したり、価値観を広げるっていう意味でも。
特にデザフェスなんかは「みんな好きな髪色して、好きな服着て、好きなことを存分に表現している」という場じゃないですか。そういう世界もあるんだよって。
——いろんな手段で子どもに選択肢を伝えているんですね。遠藤さんありがとうございました!
さいごに
育児に限らず、何事も「自分の力だけで」何とかしようと頑張り続けるのは大変ですよね。
子どもが無理をして保育園や学校に行くのでもなく、親が仕事を制限して子どもに合わせすぎるのでもなく、さまざまな人の手を借りることの大切さを教えていただきました。
子どもの登園しぶりや登校拒否に悩んだり困ったりしたときは、周囲の支援やリソースを積極的に活用することで、大人も子どもも無理せず「ちょうどよいバランス」で過ごせる世界に一歩近づけるのではないでしょうか。
遠藤 光太さん
多方面で活躍するフリーライターであり、2児を育てる父でもある。初めての育児と同時期に自身の発達障害(神経発達症)の特性と向き合う中で、自分が無理をしすぎない「社会にひらかれた育児」を実践している。2022年にその経験を綴った書籍も出版。
https://note.com/kotart90
公式note:公式X:@kotart90
書籍:「僕は死なない子育てをする 発達障害と家族の物語」(創元社)
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